大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和35年(ワ)7482号 判決

原告 安田和徳

被告 東京生命保険相互会社 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告代理人は、被告会社は原告に対し別紙目録〈省略〉記載の建物を収去して同記載の土地を明渡せ、被告金作及び同康美は原告に対し右建物より退去し右土地を明渡せ、訴訟費用は被告らの負担とする旨の判決並に仮執行の宣言を求め、請求原因として、請求の趣旨記載の土地(以下「本件土地」という)は原告の所有するところ、被告会社は右地上に同記載の建物(以下「本件建物」という)を所有して右土地を占有し、その他の被告両名は右建物に居住して右土地を占有しているので、原告はその所有権に基いて被告会社には右建物を収去し、その余の被告らには同建物より退去して右土地の明渡しを求める、と述べ、被告らの抗弁中、原告が被告ら主張のとおり訴外野村生命保険株式会社(以下「野村生命」という)に本件土地を建物所有の目的で賃貸したこと被告会社が右野村生命より本件建物を譲りうけたことは認めるが、その余は争うと述べた。〈証拠省略〉

被告ら代理人は主文同旨の判決を求め、請求原因は全て認め、抗弁として、昭和二二年七月二三日野村生命は建物所有の目的で原告より本件土地を賃借して本件建物を所有していたところ、金融機関再建整備法に基いて右野村生命は解散し被告会社が設立されて本件建物及び賃借権は昭和二三年三月三一日被告会社が包括承継をうけたもので、右承継には承諾なくして土地所有者に対抗しうるもので、かりにしからずとするも、右賃借権譲渡について原告は昭和二五年一月一三日黙示の承諾をなした、と述べた。〈証拠省略〉

理由

原告主張の請求原因及び訴外野村生命が被告ら主張の頃、その主張の目的で本件土地を原告より賃借して本件建物を所有していたこと右建物を被告会社が譲りうけたことは当事者間に争いがない。

被告らは右建物譲渡に併う土地賃借権の譲渡は承諾なくして土地所有者である原告に対抗できる、と主張するので、この点について判断する。証人鬼頭撤三郎の証言並に成立に争のない乙第二号証、第三号証の一及二、第四号証の一乃至三、第五乃至第七号証の各一乃至五、第八号証によると、被告会社は金融機関経理応急措置法及び金融機関再建整備法に基き同法所定の手続を経て野村生命の第二会社として被告会社は昭和二二年七月一六日設立され、野村生命は昭和二三年三月三一日解散し、かつ解散と同時に本件土地の賃借権、本件建物を含む全財産を被告会社に譲渡したことが認められこの認定に反する証拠は何もない。そして右応急措置法に定める金融機関が前記再建整備法によつてその財産の全部を移転して第二会社を設立したときは、新会社は旧会社が清算のため支出すると同額の債務を旧会社に対して負担する以外旧会社の負債その他一切の拘束を脱して新たな活動を開始することが期待され、右整備法はその定められた整備計画を維持するため種々の規整を定め、もつて同法第一条の目的達成を企図しているもので、その計画に含まれた土地賃借権の移転について個々の賃貸人の承諾がなければ右譲渡を地主に対抗できないものとすればその地主の意思次第で右計画の遂行に重大な支障をもたらすこととなり、これは前記再建整備法の各種規定に照しその目的に鑑みるとき不合理な結果を表わすものといわねばならない。従つて右の場合にはその承諾なくして地主に対抗できるものと解するのを相当とするから、本件において前記野村生命の有していた本件土地の賃借権の譲渡については地主である原告の承諾なくして被告会社は対抗できるものといわなければならない。よつてその余の判断をなすまでもなく被告会社は本件建物を所有して本件土地を占有する権原があるから、原告は被告会社に対し本件建物の収去を求める理由なく、従つてその執行の受認義務としてその他の被告らに対する退去請求も理由がないので、原告の請求を棄却すべく、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三好徳郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例